こんにちは、獣医師の百合雅です。
本格的な夏がやってきましたが、みなさん体調はいかがですか?
飼い主さんだけでなく、ペット達もこまめに水分を摂り、カンカン照りの昼間の散歩は避けるなど、熱中症対策を心がけましょう。
さて、今回は犬で多い消化器症状の一つである“嘔吐・下痢”についてのお話しです。犬を長く飼っている飼い主さんなら、1,2回は「急に吐いた」「下痢をした」という経験があると思います。
人間ならお腹が痛い、吐き気があるなど声に出して言えますが、動物は言えません。
最初は、どうして鳴いているの?どうして元気ないの?どうして食欲ないの?と思いつつも、1、2日様子見する飼い主さんもいることでしょう。
その後、嘔吐や下痢をして初めて体調不良に気づきます。ただ、その飼い主さんの見落とし、思い込みが思いもよらぬ事態になることもあります。
単に嘔吐と言っても、消化器疾患、腹腔内疾患、全身性疾患、代謝性疾患、中毒など数え切れないほど病名があります。下痢も軽度から重篤なものまであります。
ポイントは、飼い主さんがどれぐらいの知識があるのかではなく、病院に行くまでの間に、どう対処できるかです。どの子が、何を、いつ、どこで、どのようにして嘔吐、下痢したのか(4W1H)を明確にして頂けると、獣医師もスムーズに診察できます。
嘔吐とは?
脳にある嘔吐中枢が刺激され、胃の内容物や胃液が排出されることです。
嘔吐と区別しなければいけないのが、吐出です。嘔吐は腹部収縮運動があり、食べ物を吐き出し、吐出は突然口から食べ物を吐き出します。
吐き出すことは同じですが、症状的には全く別物のため、これを獣医師に伝えるだけでも違います。よく観察してみてください。
嘔吐は、犬ではたまにある症状の1つです。単発で吐いただけなら大丈夫ですが、その後の犬の状態で変わってきます。
吐出の特徴
- 食後すぐもどす
- よだれや口を舐めるなどの症状がない
- 腹部の動きがない
- 未消化の吐物がみられる
嘔吐した後に飼い主さんが見極めるチェックポイント
- いつもの元気はあるかどうか
- 食欲はあるかどうか
- いつから吐いているか
急性か慢性か - 吐いた物、色は何か
消化物or未消化物orその他
黄色or白色or茶色orピンクor血混じりorその他 - 何回、吐いたか
- 便は出ているか
※腸閉塞しているときは便が出ません。基本嘔吐です。 - 食事後、どのぐらい経過しているか
- 誤食はないか
- 抗がん剤や放射線などの治療中ではないか
- 身体を触ってみて発熱していないか
嘔吐は、急性か慢性かでまず判断します。
1~数日
1週間以上継続している
急性嘔吐でも、1日1、2回の嘔吐で元気や食欲がある場合は軽度の嘔吐、1日に数回嘔吐でかつ元気食欲がない場合は、重度の嘔吐と判断します。数回嘔吐していて元気や食欲があるという場合でも、中~重度の嘔吐とすることもあります。
慢性嘔吐は全身状態が良くても、皮下点滴などの対症療法で良化しなければ、精査する必要があります。全身状態が悪ければ、急性と同じように中~重度の嘔吐となります。
嘔吐の原因
非消化器系
- 乗り物酔い
人間と同じように、犬も乗り物で酔うことがあります。もし乗り物酔いがある場合には、乗る前に動物用の酔い止めがありますので、動物病院で処方してもらいましょう。 - 過食
犬はあげればあげるだけ、食べてしまう子もいます。小食であれば問題ないですが、いくらでも食べてしまうことで、胃が容量オーバーとなり、吐いてしまいます。 - 中毒、薬剤によるもの、誤食
よく盗み食いや、何でも食べてしまう犬はいませんか?
中毒になるものは、この世にはたくさんあります。なんでも食べてしまう子は、注意が必要です。- タマネギやニンニク入りの餃子を食卓から盗み食いした
- ゴミ箱をあさってしまった
- ブドウやチョコレートをあげてしまった
- ごきぶりホイホイのホウ酸団子を食べた
- 人間の薬を飲んでしまった
- 金属片や毒のある野草を食べた
- 保冷剤や自動車の冷却水を飲んだ(エチレングリコール)
- 代謝性疾患
- 尿毒症
- 電解質、酸塩基平衡の異常
- 内分泌疾患
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- アジソン病
- 中枢神経疾患
- 髄膜炎
- 腫瘍
- 子宮蓄膿症や敗血症
- ストレス性
消化器系
- 肝臓、膵臓(消化管以外の臓器)
- 肝、胆道疾患
- 膵炎
- 腹膜炎
- 腫瘍
- 胃
- 胃炎
- 潰瘍
- 寄生虫疾患
- 異物
- 胃拡張、胃捻転
- 消化管運動異常
- 腫瘍
- 小腸
- 炎症性腸疾患
- 寄生虫疾患
- 異物
- 腸重積
- 腫瘍
- パルボウイルス
- 大腸
- 大腸炎
- 寄生虫疾患
- 便秘
- 食事性
- アレルギー性
下痢とは?
便の水分量が多くなっている状態のことです。
そのため何回も下痢をすると、脱水になる可能性があります。突然の軟便~下痢や、出血性の下痢、腹痛のある下痢などさまざまです。
下痢をした後に飼い主さんが見極めるチェックポイント
- いつもの元気はあるかどうか
- 食欲はあるかどうか
- いつから下痢になったか(急性下痢か慢性下痢か)
- 下痢の色、形状、臭いはどうか
- 最近、食事を変更してないか
- 変な物を食べていないか
- 身体を触ってみて発熱していないか
- 抗がん剤や放射線などの治療中ではないか
- ストレスを与えていないか
下痢をしてしまった時は、便の形や色など、どのような状態かを写真や動画に残しておくか、動物病院に持参するようにしましょう。また、軟便であっても同じです。いつもとは違う便をした際は、記録しておきましょう。
なぜかというと、下痢は便の形状、徴候から病変部位を推測することができます。
大きく分けて、小腸性か大腸性に分類できます。
便の形状・症状 | 小腸性下痢 | 大腸性下痢 |
---|---|---|
ゼリー様粘膜 | まれ | よくみられる |
鮮血便 | ほとんどみられない | みられることがある |
便の質 | 有形便~水様便まで様々 | 未消化物を含まない |
脂肪便 | 消化、吸収不良でみられる | みられない |
タール便(黒い便) | みられることがある | みられない |
頻度 | 1日2~4回 | 増加、1日3~5回 |
排便障害 | なし | 多い |
しぶり | なし | 多い |
体重減少 | 慢性化するとみられる | まれ |
嘔吐 | よくみられる | たまにみられる |
食欲 | 正常~減少 | 変化なし(重症で減少) |
口臭 | みられることがある | なし |
便失禁 | まれ | みられることがある |
下痢の原因
- 食事性
- 食物アレルギー
- おやつなどのあげ過ぎ
- 食事の変更
- 炎症性
- 急性腸炎
- 慢性腸炎(炎症性腸症など)
- リンパ管拡張症
- 感染症
- 寄生虫疾患(回虫、鞭虫、鉤虫、マンソン裂頭条虫、コクシジウム、ジアルジア、トリコモナスなど)
- 細菌性疾患(大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど)
- 真菌性疾患(リケッチアなど)
- ウイルス性疾患(パルボウイルス、ジステンバーウイルス、コロナウイルスなど)
- 腫瘍
- 薬物、毒物
- 抗菌薬
- 抗癌剤
- 毒草、毒キノコの誤食
- 消化管以外の疾患
- 子宮蓄膿症
- 膵炎
- 腎不全
- 膵外分泌不全
- 敗血症
- 腹膜炎
- ストレス性
まとめ
嘔吐、下痢を起こす病気は、ここに書いている以外にもまだたくさんあるため、症状だけでは判断できません。
ただ、家での犬の様子を飼い主さんが獣医師に的確に伝えていただくと、たくさんの情報が得ることもでき、予想をつけながら検査や精査ができます。
もちろん、これだけで判断するわけではないですが、検査に加え、情報があればあるだけその病気に辿り着くことも早くなる可能性があります。
犬が嘔吐や下痢をしてしまっても、焦ることなくチェックポイントを思い出してみて、情報を整理して動物病院へ受診しましょう。